ペーパー・スクリーン版画とは、日本で生まれ日本で育った現代版画です。
版式は孔版に属するもので、日本の古い絵画の技法と深いかかわりがあります。
日本古来の「捺染」、「倭絵」、「紅型」等の技法に「謄写版」の技法、それに作者が発見工夫して得た「特殊な技法」を混じえて表現されます。
和紙の繊維を透した柔らかな質感があり、独特のマチエールと、色彩やかで多彩なグラデーションが生まれます。
版が残らず後刷りする事が出来ないため、作品に希少性があるのも特長です。
ペーパー・スクリーン版画は何枚もの和紙を重ねます。
着色には油絵具など油性のインクを使って刷り重ねます。
色と色が重なることによって深い色彩と色彩やかで多彩なグラデーションが生まれます。
そうして生まれる形や色は、同じものは他とありません。
ペーパー・スクリーン版画が完成するまでには、たくさんの工程があります。
1つの作品を例にとって、流れを簡単にご説明いたします。
01
原画
トレーシングペーパーに手描きで図案を起こします。色鉛筆などにより色の設計などを行います。
02
原稿
水彩パミス紙(中性紙)に原画をトレースします。
03
もみ版を作る
特殊な和紙をもみ、版として使用します。和紙に亀裂が入り、その亀裂からインクを透します。色によってもみ方を変えるため、それぞれ異なる表情が生まれます。
04
もみ版1 / ブルー
1つ目の版です。この例ではブルーを使用しました。
05
もみ版2 / ピンク
2つ目の版です。この例ではピンクを使用しました。
06
重ねる
2つのもみ版を重ねます。色と形が重なり、偶然生まれる表情もあります。
07
もみ版3 / イエロー
3つ目の版です。この例ではイエローを使用しました。
08
重ねる
イエローのもみ版も重ねます。三原色が重なる事により多彩な色を表現できます。この3色を使用することが多く、このグラデーションが作品にアクセントをつけます。
09
ベタ版を作る
今度は紙を切り抜いて、ベタ版を作ります。
10
ベタ版を作る
穴を空けた場所だけインクを透します。
11
ベタ版 / イエロー
設計通りに切り取られた形の版です。
12
重ねる
もみ版の上にベタ版が重なります。具体的な形(ここではフクロウ)が見えてきます。
13
ベタ版 / ピンク
14
重ねる
ベタ版ともみ版が重なりあって、また違った表情を見せます。
15
ベタ版 / ブルー
16
重ねる
徐々に色が入り、華やかな印象になってきました。
17
ベタ版 / レッド
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これまでの絵に重ねる
レッドが入り、色彩が豊かになってきました。
19
ベタ版 / ブラック
20
重ねる
ブラックが入り、画面が引き締まります。
21
ライン版を作る
ろう原紙に鉄筆でラインの穴を空けます。 時間のかかる繊細な作業です。
22
ライン版 / グレー
23
重ねる
ラインが入ることにより、絵が完成へと近づきます。
24
ベタ版 / ゴールド
最後はゴールドのベタ版を重ねます。
25
重ねる
絵に華やかさが出ました。
絵はこれで完成ですが、作品としてはまだ完成していません。
26
額装して完成
作品にあわせて額装します。作者がオリジナルで額を作る事も多くあります。
大場敬介の父である大場正男氏は、ペーパースクリーン版画の第一人者であり、
現代の版画家に大きな影響を与えた存在である。
ペーパー・スクリーン版画家
大場 正男oba masao( 1928-2008 )
・日輝会美術協会名誉会員
・福岡美術協会会員
・スウェーデンSKANSKA美術アカデミー客員教授
1956年 孔版画を始める。
1969年 CWAJ現代版画展に出品(以降毎年出品)
1997年 文部省検定済教科書高等学校(三省堂)の表紙絵に採用
1998年 第17回国際Exlibrisビエンナーレ展大賞受賞
2000年 第25回福岡市文化賞受賞
2001年 太宰府天満宮千百年祭『餘香貼』の献納作家に選出、作品奉納